職員コラム 第1号:臨床心理士・公認心理師

職員コラム苦境の中にある光と影

産業精神保健(IMH)研究所

研究員 臨床心理士・公認心理師

米村 高穂

 

元文化庁長官・臨床心理士である河合隼雄先生は、「ふたつよい(わるい)ことさてないものよ」(河合隼雄著『こころの処方箋』より)という言葉を残されています。これは、何か悪い(良い)ことがあった時に、よくよく目をこらして見てみると、それに見合う「良い(悪い)こと」が存在しているという意味です。

 

新型コロナウイルスによって経済的な打撃を受けた方も多くおられますが、私たちがお会いしている患者さんの中にも、不安を掻き立てられ、日常生活に支障きたしている方がいらっしゃいます。しかし一方で、このような状況であるにもかかわらず、懸命に前を向き治療が進展し始める患者さんも多くおられます。そのような姿に驚きとともに、小さな感動を覚えました。苦境の中で患者さんたちの力が顕現したのではないでしょうか。まさに「ふたつわるいことさてないものよ」です。

 

人が病気になったり、悩み迷うことも同じような側面があるのではないでしょうか。人が病気になることは大変な苦しみを伴います。そのことに対する畏敬の念を忘れてはいけませんが、一方で、病気や悩むことを通して自分の生き方をもう一度見つめるチャンスとなる可能性もあります。その過程は、大変な苦しみを伴うので寄り添う人が必要です。私も、臨床心理士・公認心理師としてそのような関わりを大切にしたいと思っています。

 

その一方で、常日頃から思うのが、患者さんは自分とは違う「一人の人格」を持った存在だということです。当たり前のことなのですが、私たちは、気付かないうちに自分の価値観を押し付けてしまったりすることがあるからです。患者さんが示す問題と言われる言動の背景には、そうせざるを得ない必然性や歴史性があります。目の前の患者さんの言動について良し悪しを評価するよりも、なぜそのような背景を持たざるを得なかったのかと、少しでも慈しめるようになりたいと思います。